September 25, 2009

有機アパート

ムンバイにあるうちのアパートには、この季節になるとどういうわけかみのむしが発生する。長さが1センチから2センチぐらい、幅が2、3ミリのかなり小さなみのむしで、よく見ないとただのほこりの塊にしかみえない。これが、白い漆喰の壁にぽつぽつとついていてなかなか不気味である。

私は虫が大の苦手なのだが、みのむしは小さいながらも自分で家も構えているし、特に動きもしないで壁に引っ付いているだけなので、まあそういうことならご自由に、というかんじで見逃してやっている。何日も朝から晩まで壁に引っ付いたまままったく動く気配がなく、どういうつもりで生きているのか謎だし、どこで食物を手に入れているのか、男女がどこで出会って繁殖しているのか不思議であるが、それは私には関係がない。まあ大して関心もないといっていい。

最近、ヤモリもどういうわけか大発生している。家にいてボーっとしていると、しょっちゅうヤモリと目が合う。3センチぐらいの生まれたばっかりのから、7センチぐらいの大きなやつまでいるから、一応家の中で繁殖しているに違いない。ヤモリは爬虫類だから、どこかに卵を産んでいるはずなのだが、一度も発見したことはない。あるいは外の草むらで繁殖して、亀みたいに生まれてすぐ7階までどんどんのぼってくるのかもしれない。

ゴキブリとネズミ、ハトについては言わずもがなである。このムンバイの3大嫌われ者たちは、勝手に外で生きていれば別にこっちも文句は言わないのだが、人間の生活空間にどんどん入ってきて荒らすわけだから、こっちとしては懲罰して当然である。この点カラスや野良犬は自立して暮らしているので、私としては特に文句を言う筋合いではない。

ハトに関しては、部屋の窓を開けておくとどんどん飛び込んでくるので非常に困る。日曜なんかに窓を開けて昼寝をしていると、ハトがカーテンを突き抜けて飛び込んできて、自分で飛び込んだくせに大パニックに陥る。別に静かに入ってきて、「あ、すいません」と言って出て行ってくれるのならこっちとしても別に「あ、そう」と言って済ませられるものを、こっちが悪いみたいに大騒ぎしてい部屋中を飛び回るもんだからかなり迷惑である。

一度は窓を閉めわすれて出かけて、家に帰ってくると、2匹のハトが並んで私の布団の上で寝ていたことがあった。これらのハトは、2匹いたから心強かったのか知らないが妙に落ち着いており、私がドアを開けると、「あ、帰ってきちゃったね」、「ね」、みたいなかんじで顔を見合わせて、特に騒ぎもせずに歩いて窓から出て行った。奇妙な二人組みであった。

かわいい生き物がぜんぜんいない、というのがムンバイの特徴のひとつだ。しかし虫であれ、鳥であれ、動物であれ、共生できるか否かの境界線は、互いの物理的、心理的なパーソナルスペースをどれだけ侵さずにやっていけるかというところだろう。ゴキブリだって、あんなに速く歩きまわって人を驚かせなければさほど嫌われることはなかったに違いない。他者とはそういうものである。

一方で、自分の好きな対象や相手については話はまったく逆である。呼んでも絶対そばに来ないような猫は飼っていても悲しいだけである。誰に、どれだけ近づいてほしいか、自分の生活を邪魔しちゃってほしい物事や相手はだれか。そういう自分のごく生理的な反応に実はすべての答えがあるのだ。

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