July 15, 2008

遅れすぎる電車と、遅れなすぎる電車

駅で切符を買う列に並んでいたときのことだった。長い列だったので、退屈した学生風の青年がうしろから私に話しかけてきて、どこの国から着たのか、と聞く。「当ててみたら」といつものように返すと、彼は中国人かフィリピン人だ、と言った。フィリピン人と間違われたのは初めてである。

青年は続けて、「ぼくはインドなんかより日本に住みたい。インドをどう思うか?」と尋ねた。これもよくある質問である。こういう質問には、郷土愛と母国を憂う(というか批判的な)気持ちがないまぜになっているのがわかる。私はインドに暮らしているほうが日本にいるよりけっこう快適なのだが、ややこしいことを言って「Why」と質問されると返答に困るので、こういうとき単純に「Good!」と親指を上げて答えて話を切り上げようとする。

しかしこのときはいつもと違い、横から別のおっちゃんが口を挟んできて、Goodじゃねえよ、と議論を始めた。「どの国と比べても、インドはひどい。外人はGoodとか言うけど、そんなこと簡単に言うのはよくない」と真剣である。確かに、おじさんのいうことも一理ある。そりゃGoodじゃねえよな、と思って静かに会話から離れた。おじさんは結構貧乏そうだったので、いろいろ苦労があるのだろう。かといって、日本人の幸福度の平均値(そんなものがもし取れたら)をインド人の幸福度と比較しても、決してインド人より高くならないのではないか、と思う。

ひとつましなのは、おじさんは少なくともインドの何が問題なのかをはっきりわかっている、ということである。問題がわかっていれば、それが解決できなくても、少なくとも文句を言うことが出来る。日本では、いったい何が悪くてろくでもない事が起こるのかを突き止めるのが難しいと感じる。例えば、最近陽子がGoaに行くとき、電車が6時間も遅れて駅で待っていた、という話を聞いたけれど、これだったら「怠けないでちゃんと時間通りに走らなきゃ駄目じゃないか」というだけのことである。しかし、日本の電車は死んでも時間を守り、守らなければならないプレッシャーの中でスピードを上げた電車がカーブを曲がりきれずビルに飛び込んだ。何に文句を言っていいのかわからない。ただ、日本の事件や問題を見聞きするとき、いつも「わからない」という不気味な感じがある。


いずれにせよ、インドと日本では社会的な問題の種類が違いすぎて、人に説明しようとしてもできない無力感に陥る。外国人の愛嬌でにっこりわらってかわしつつ、頭は混乱していくばかりである。

7 comments:

  1. 気合の3連投稿おつかれさまです。
    催促した手前、いろいろコメントしたいところだけれど、うまく言葉がまとまりません。ダメですねぇ。
    幸福って何なんでしょうね。日本から出たことの無い私は外との比較はできませんが、出たらそれも少しはわかるでしょうか?何も疑問に思わないのが一番幸せなんでしょうかねぇ。わたしはこの歳になって今後疑問が次々と湧いてくる予感がしてるんですけど、困ったものですね、笑。

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  2. 日本国外に出てもわかんないです。まったく。でも膨大な数の価値観があるから、ああこれもありか、そっちもありか。あ、そう、だったらもう何でもありじゃん、という感じになるかもしれない。

    日本にいてちょっと変わったことをやっていると大変かもしれないね。海外にいて、同じように海外に出ている日本人や外国人に会うと、みなさんポジティヴだし、今面白いと思うことを今やっているだけ、さて、つぎはどこへ行こう?という感じで潔い。だから日本にいるときに感じた、将来一人でどうやって生きていくんだろう、という不安やプレッシャーはなくなったと思います。

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  3. 初めまして。まぁちゃんです。
    ひょんなことからこのブログに行き着きました。シンプルなのに的を得ている文章、楽しみに読ませていただいてます。
    海外暮らし14年の後、東京で暮らし始めて3年、幸せってなんなんだろうって毎日考えますね。おっしゃるように「利便性」が幸せにしてくれるわけではないということだけはハッキリ判りましたが。
    この「すごく便利な日本に住んでいるんだけどどうして幸せそうじゃないんだろう感」は外国人には大変分かりにくいのかもしれません。友人のアメリカ人にもわからないらしいですから。

    ブログ、これからも楽しみにしてます。
    どんどんアップしてくださいねっ。
    突然失礼しました m(_ _)m

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  4. まあちゃん、

    ご来訪ありがとうございます。読んでいてくださっているとは、ホントにうれしいです。これからもがんばって書きますので(ときどきはつまらないときもあるかもしれませんが)ぜひまたきてください。コメントも励みになります!よろしくおねがいします。

    ところで海外暮らしを14年もされたあとで東京に暮らすってどんな感じですか?やっと戻った、という感じでほっとされたか、それとも何か違和感を感じて暮らしていますか?私もこの先をどこで暮らすのかまったく未定の身ですので、ぜひ教えていただきたいです。

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  5. 14年ぶりの日本。
    ニューヨークから帰って来た当初はかなり辛かったですね。日本では直接的にものを言うと(特に否定的に『結構です』などと言おうものなら)お互い気まずい感じになってしまうところがあるので。で、間接的に言うと物事がいつまでもスムーズに運ばないし・・・。
     ( ̄▽ ̄;)
    かなりの「リバースカルチャーショック」でした。
    あいさんのブログを読んいてインドは宗教的な決まり事はあるかもしれないけれど、日本よりは人々の精神が開放されているような気がするのは言い過ぎでしょうか?
    こっちが「ニューヨークから帰ってきました」って言うと「へぇ、すごいねぇ!カッコいい。」とか言うのに「次はインドで暮らしてみたい!」って言うと「なんでインドなのぉぉ?やだぁ。あたしは一生行かなくていいかも。ウォシュレットないよねぇ。」などと平気で言う偏った一等国民意識が強い人々の多いことよ(もちろん『私もインド行きたいっ!』っていう人も沢山いる)。
    ほんと、こういうの参る。かなり参る。でもなんで自分が「参る」のかちゃんと言葉で説明できないのも事実。年なのに・・・。
    日本は食べ物美味しいですよぉ(いい点も書きます)。
    でもこの怒濤のグルメ文化にも飽きてきちゃいましたけど。食べたいものも食べれない人が世界にはいっぱいいるのに、どこの店のとんかつが東京で一番美味しいのか順位付ける必要あるんかいな?
    結局はグチ。
    私も大変将来が不安です・・・。
    このネタで書き始めると20ギガは平気で使えちゃいそうです。でへ。

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  6. 愚痴ばかり書いてあいさんの質問にダイレクトに答えてませんでしたね。ゴメ。
    はい、違和感を感じてます。
    その違和感が溜まると辛くなっちゃいそうです。
    また外国で暮らしたいと考えてます。

    バンガロール移住の話がないわけではないです。
    うひょひょっ。
    マジで積極的に進めたいですね (*^o^*)

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  7. 「リバース・カルチャーショック」、怖いですねぇ…。
    確かに、そういう参った、という感じはわかるような気がします。日本に住んでいたときには、「日本は価値観が多様になってきた」ということがよく言われていて、ああ、そうなのかなー、と納得していましたが、実際には日本は生き方や価値観がかなり画一化されていますね。短い間日本に滞在しただけでも、「一定の軌道に乗っているか、いないか」で人生をはかる見えないものさしがあるのをひしひしと感じました。

    いろいろある、というのが前提で人が生きているという意味ではインドは日本より開放的な面もあると思います。

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