July 19, 2008

No Sorry, No Thank You

日曜日に一人で映画を観にいった。「Jaane Tu Ya Jaane Na」 というヒンディ映画で、若い大学生6人グループの友情と恋愛といった内容だ。インドの有名俳優アミール・カーン(Amir Khan)が監督した映画で、おしゃれ、さわやか、ハッピー、だけどちょっと複雑な心理描写もあり、という素敵な映画。主人公のジェイ役、イムラン・カーン(Imran Khan)ハリーポッター役をやっている男の子にそっくりでなかなかかわいかったです。

ところで、私はヒンディ語がさっぱりわからない。映画の中で唯一わかったのは「クッチュ・ナヒン・ヘ(なんでもない)」だけだった。最近はもう慣れてしまったので、言葉がわからなくても映画が楽しめるようになった。想像力で観るのです。文脈と表情と語調で大体何が起こっているのかを想像しながら観る。時々英語でしゃべってくれるから大体それで何を話しているのかわかることもあります。

ただし、ストーリーの大筋はわかっても、やっぱり細部はわからないので悔しい。それで休憩時間に隣に座っていた女の子に「ちょっとちょっと」と頼んでわからなかったところを教えてもらうことにした。主人公のお母さんが児童福祉の仕事についている、とか、誰が仲良しグループに後から入ったとか、細かい設定を親切に教えてくれた。これは非常によい体験でした。

インドで外国人として暮らしていたら、困ったら人にとりあえず聞こう、できなかったら頼もう、という生き方がけっこう習慣化してきた。よくインドのガイドブックには、「インド人に道を聞くと、だいたい間違った情報を教えられる」と書かれているけれど、これは自分が少しでも知っていることをとりあえず教えてあげよう、という親切心の結果なのだ、と陽子は言う。私もその説を信じている。「知らない」と言う代わりに「多分、あっちのほうだったと思うから、ちょっと行ってみなよ」と言うわけだ。町の誰をつかまえても、だいたいは親切に助けてくれる。困った表情をしているだけでも向こうから声をかけてきて「手伝おうか?」と聞かれることもある。

ヒンディ語では「ありがとう」と「ごめん」があまり使われないが、それは人に頼んだり手伝ったりといったことが当たり前のこととして行われている社会だからだ、というのもインドで暮らし始めたころに陽子に教わったことだが、実際、これも正しかった。それをRudeと考えるのはちょっとちがう。人によって違うけれど、私の場合はそれに慣れることで、ずいぶん楽に暮らしている。ちょっと人生観が変わったといってもいいくらいだ。「ありがとう」といちいちいうことで、そこにあったはずの共感や協力精神みたいなものを切り捨てて、気づかずに人との距離をとってしまうことだってあるのだ。

もうちょっと厳密に説明すると、お礼を言うことで、人はそこで起こっていた出来事を「自分のために起こったこと」にしてしまうのである。感謝されるのは嬉しいことだが、お礼を言われた瞬間に、言われたほうは「ああ、自分はその内側にいたわけじゃなかったのか」と気づかされる。協力して仕事をしていたはずの人に、「手伝ってくれてありがとう」と最後に言われて拍子抜けするのと同じ感覚である。

日本はカタ(形式)を美とみなす文化を持っている。私自身は田舎の、とくに生活におけるカタを重視する土地に育っているため、あいさつや礼儀を見せる、という習慣を、みっちりと暮らしの中で教えられてきた。前にも書いたかもしれないが、私は教わったことに過剰適応するたちなので、「他人に迷惑をかけること」を最も気にかけて生きてきたような気さえする。しかしインドでの暮らしの中には、日本であんなにはっきり見えていた「他人」と「身内」との境界線が見えない。「他人に迷惑をかける」ということはどういうことなのか、ここではもうよくわからないぐらいである。あの境界線を見つめてひたひたと孤独を感じて暮らしている人は、日本を出ることをおすすめします。

そんなわけで、出かけるときにはろくに地図も持たず、たった1時間の行程に5人も6人も道行く人に声をかけて、知らない人と肩を並べて道を歩いている。問題は、こっちはほとんど誰も助けられないということである。

シャー・ルク・カーンの去年の大ヒット映画、「オーム・シャンティ・オーム」の中のセリフに、「友達どうしの間には、ノー・ソーリー、ノー・サンキュー」という素敵なセリフがある。そうだよな、と私も思う。

2 comments:

  1. こんにちわ。まさら通りというサイトを運営しているトウショウと申します。

    インド在住で検索したらヒットしたのでお邪魔しました。

    アイさんは、ムンバイで働かれているのですね。

    つかぬ事を伺いますが、アイさんは、現地採用でしょうか、それとも駐在でしょうか?

    すでに訪れたことがあるかもしれませんが、お暇なときに遊びにいらしてください。

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  2. こんにちはトウショウさん。来てくださってありがとうございます。
    まさら通りはもちろん存じ上げております。私はちょくちょく新情報を確認している常連ビジターの一人です。

    以前、インドから海外の本を注文する方法がわからなくて質問コーナーに質問をさせていただいたこともあります。大変助かりました。

    私は現地採用の社員です。日本からインドの企業に希望を出して、こっちに引っ越してきて1年数ヶ月になります。会社は非英語圏の国に向けて英文校正、英文ライティング教育と英語テープ起こしのサービスを行っていて、私は英文ライティング教育サービスの日本マーケティングを担当しています。

    またお世話になることがあるかと思いますので、よろしくおねがいします。
    Navi Mumbai、とくにVashiの情報がほしいときはぜひ協力させてください。

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