September 2, 2008

浦沢派と立花派

私は会社のマーケティング部に所属して、ブランド・マネージャーをしている。この半年で3回上司が変わったのだが、今の上司はインド人で、私より一歳下のエネルギッシュなアイディアマンで、思いついたアイディアを次々に私のタスクリストに追加していく。アイディアはだいたい、実現できるのかできないのか、ぎりぎりのラインのものが多い。新ネタを聞くたびに、心の中で「マジ?」と一瞬思うのだが、まあなんでもとにかくやってみよう、ということでこれまでいくつかの仕事をこなしてきた。

彼の思考を聞いていると、漫画家の浦沢直樹がNHKのインタビュー番組で話していたことを思い出す。浦沢直樹は、漫画の構想を練っていると、最初に映画の予告編のような形でアイディアが出るというのである。すごい面白そうなキャッチコピーと絵がバーンと出る。その時点ではどんな話になるのか決まっていないけれど、その予告編から細部をつめていくのだという。最初の「これはすごい面白そうだ」というところを裏切らない作品を作るように努力しているのだそうだ。面白い。

私の上司もおそらく似たような思考の持ち主である。アイディアを話すとき、右手を左右にたかだかとふりかざして、「なんとかなんとか!」とまずどでかいタイトルを言う。その後キャッチコピーを思いつく。で、具体的にどういうことをやるんですか?と聞くと、わかんないけど、それは次のミーティングで話し合おう、となる。次の週までに細部を練っておくのは私の仕事なのである。人から来たアイディアの細部を練るのは案外難しいんだけどな、とぶつぶつ言いながらいつも仕事をしている。

一方で、私は逆にごく細部から始めてものを作っていくタイプの人間である。絵を描くときには、最初に思いつきで丸を書いて、その丸から連想される部品をおもいつくままに付け足して、「お、これはどうやら顔だな」などと、見えてきた形に合わせて手を入れていく。このブログも、書きたいことがあってそれに向かって書いているわけではない。最初の一行目を書いているときには、二行目に何を書くのか、結論としてどういう話になるのかさっぱり見えていない。真ん中ぐらいまで書いたところでなんとなく文章が意味するところがぼんやり見えてくるだけだ。いきあたりばったりで、自分が向かっているゴールが見えていない。まるで自分の人生の縮図みたいでちょっとこわい。

そんな風だから、大学院生時代に論文を書いていて結構苦労した。時間をかけてアウトラインを作っても、実際に文章を書き始めると、計画通りの結論にならない。これは今も同じで、上司に「こんな広告を作ってほしい」といわれて仕事を始めても、細かい部分にこだわっていると最初のコンセプトとあわなくなって、出来上がりはぜんぜん別のものになった、ということがままある。「できました」といって見せると、「最初に頼んだやつと違うじゃん」といわれる。確かにぜんぜん違うのだが、なんだか知らないけどそうなっちゃったんだからどうしようもない。

私は思考をオーガナイズするのが苦手なことを引け目に感じていて、若いころに論理思考の技術なんかをかなり熱心に勉強した。それはそれで今かなり役に立っているけれど、あるとき立花隆が「知的ノンフィクション術」の中で「無意識の力を信じろ。論理はもう頭の中にあるから、アウトラインなんか気にしないで、書き出して、止まったら考えて、また書くを繰り返せ」というようなことを言っていたのを読んで、あ、それでいいのか、じゃあそれで生きていこう、と開き直って今に至っている。

二人のやり方の違いがあまりにも大きくて、うまくいくときは役割分担がぴったりといくときもあるのだが、ときどきちぐはぐになることもある。「僕が思っていたのとちょっとちがうんだけど」、「いや、そうなんだけど、なんかそっちはうまくいかなくて・・・」という状況に結構何度も陥ってきた。結局、うーん、おかしい、どうしてこうなるんだ、どうしたもんか、と頭を抱えて長時間ミーティングを繰り返しているのが今の日常である。

2 comments:

  1. なんか読んでたら、全然違うかもしれないけど、自分の仕事のこと思っちゃった。デザインの仕事は構想命、計画に沿ってやっていくもので、その仕事はもちろん好きなんだけど、目的に従うために細部(その計画ではあまり重要でないけど、自分は気になる部分)をおきざりにしてしまうことが多い。で、そればっかりだと何か大事なものを失う気がして、それで陶芸をやってるんだ、という気がしました。それでバランス取ってる。バランスすごく取れてるのかも?その上司の方と。

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  2. なるほど。そういうことになっていたのか。私は陶芸もコンセプトが先にあるかとおもっていたんだけど、ちょっとちがうんだね。そんなふうにバランスとっているとはね。意識的にやりはじめたらもっと面白いことになりそうだね。

    なんかさ、構想を重視でやる仕事って、自分のひらめきの瞬間がおもしろいんだよね。だけど、私は作ってる過程が面白いんだよね。ずーっと作っていたいというか、実は完成させたくないというか。実際には完成体を速く見せて、と言われるのが仕事だからなかなかぐずぐずできないのが大変。

    バランス…とれてんのかなぁ。うまくいくと、カバーしあえているときもあるんだけどねぇ。

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