January 5, 2009

ケララではねじを巻かない(3) Varapuzha村の原始的な陶芸技術

一緒にケララ旅行に行った友達は陶芸家である。彼女が妹尾河童のインド旅行記エッセイをカバンから出して、本のイラストを指差して、「ここに言ってみたいんだよね」と言う。それはケララのCochinの近くにあるVarapuzha(バラプラ)という小さな陶芸村のイラストであった。その小さな村では、村人全員が陶芸をやっていると書いてある。面白そうなので、ケララ旅行の最後の日にその村を探してみることにした。

バスでCochinに到着すると、すでに夕方であった。リキシャの運転手に村の名前を言うと、「ここから32キロぐらいだから、30分ぐらいで行けるな」と妙に正確な距離を言う。怪しい。しかし、村の場所には自信があるみたいだからとりあえずリキシャを走らせてもらう。村の付近でホテルを探そうと思っていた。

しかし、走るリキシャの上から道の両脇を目を皿のようにして観察していたのだが、ホテルらしきものがさっぱり見つからない。どうも観光地やホテル街からどんどん離れたところに向かっているような様子である。まずいかもしれない、と思ってリキシャを一度止めてCochinの地図を見せて、「今どこで、これからどこへ行くのか地図を指差してくれ」と頼んだのだが、リキシャのドライバーにさっぱり英語が通じない。「あと8キロで村につくよ」とまた妙に正確な数字をいう。怪しい。ケララの現地語はマラヤーナムなので、ムンバイのように片言のヒンディ語すら通じない。困ってリキシャを飛び降りて、道行く人に声をかけて道を尋ねることにした。

その辺のおじさんを捕まえて、「バラプラにホテルはあるか」と訪ねてみた。私の発音が悪いのか、「Hotel」がさっぱり通じない。ホテール、ハテール、ホ・テ・ル、といろいろ試してみたのだが、「フタル?」と、ホテルに似た近所の村の名前らしき単語を繰り返される。そのころには騒ぎを聞きつけたリキシャを囲んで村人がどんどん集まっていた。みんな結構ひまらしい。仕方ないので紙にHotelと書いて見せると、野次馬の輪の中にいた賢そうな少女がついに、「ああ、ホテルね!」と叫んだ。「バラプラ村にはホテルはないよ」と言うので、その日は探索をあきらめて、Cochin市内でホテルを探すことに決めた。

翌日、ホテルのフロントに相談すると、タクシーの運転手に陶芸村を探すようコーディネートしてくれた。ホテルから車で1時間強。実にあっという間にその村が見つかった。ろくろのある小さな作業小屋と原始的な窯がある。陶芸をやっているのは、今は村で一軒だけだという。おじさんが原始的なろくろをまわしてつぼを作って見せてくれた。おばさんも出てきて、つぼの口をつける作業をデモンストレーションしてくれる。レンガ造りの原始的な窯が家の裏にあり、そこで3日かけて焼くのだという。帰りに小さなつぼとランタンを買った。

私は今まで予定のない旅をしたことがなかった。しかし今回の旅行で、空港を出た瞬間に何の予定もない時間が広がっている、という旅のやり方が、予定のある旅よりずっと楽であることを知った。新しい土地は、行ってみるまでどんな様子かわからない。何を好きになるのか、何をキライになるのか。ひとつの場所が気に入ったら、そこに長く居ればいいし、気に入らなければ早く去ればいい。そうやって自分に聞きながら進んでいくと、無理をしない旅ができる。もちろんできる限りの時間を確保しておくことが重要なのだが。

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