August 11, 2008

インドに持ってくるもの

最近、今度会社に来る予定の台湾人のインターン生とメール交換する機会があった。人事が新しい外国人研修生(と送り出す家族)の不安を解消しようと、私のメールアドレスを渡したのである。たかが1年少し暮らしただけのくせに、物知り風に一応インド生活の先輩としてあれこれ持ち物や心構えをアドバイスしたりするのはなかなか楽しかった。

ところで、「インドに何を持っていけばいいの?」という質問はなかなか答えるのが難しい。その質問は、インドでどんな風に暮らすか、という問いと直結しているのだが、その人がどんな暮らしをするのかは実際に暮らしてみないと分らないからである。ムンバイなら生活に必要な基本的なものはなんでも手に入るが、どんなにインドに憧れてやってきても、水や食べ物が体に合わないことだってある。清潔の観念や生活習慣など、どうしても受け入れられないものがあるかもしれない。

たとえば以前に出会ったカナダ人のバックパッカーは、インド料理が食べられないので毎日サブウェイ・サンドイッチを食べていると話していた。半年もインドを旅していてサブウェイ・サンドイッチはないでしょうと思うが、食べられないものはしょうがない。もちろん料理以外にも見るべきものは山ほどあるんだから、そこは我慢してサンドイッチを探して歩くしかない。

また、日本の大企業の駐在員の方の家にお邪魔したときに、キッチンの戸棚と冷蔵庫に日本のインスタント食品、米、調味料がびっしり詰まっているのをみたことがある。こういう生活ももちろんありうる。お金と購入ルートがあれば、物質的には日本にいるのと大して変わらない生活をすることだって可能である。

私自身は人生に指針を打ち立てて、決めたスタンスを守って生きていく…、というようなタイプではないので、現地の文化習慣に慣れなくてつらい思いをした経験はない。「こういうもんだよ」と教えられれば、「あ、そう」というふうにするすると通り抜けてきてしまった。たとえば、「トイレで紙は使わないんだよ」といわれれば、「そうか、使わないのか」と思って家にはトイレットペーパーを置いていないし、バスタブに浸からない生活で足の裏が硬くなってきても、「ああ、硬くなってきたなぁ」と時々触ってみるだけである。

「これがないと困る」という物をなるべく作らないようにすることで、すこしでも不自由さから開放されようという意図も、少しはある。日本製の爪切りじゃなきゃ爪が切れない、と言っていたら、爪を切りたいときにはいつも日本製の爪切りを探し回らなければならない。そういうのがただ単に億劫なのである。

とはいえ、この1年でどうしても手放せないでいるのが醤油と出汁だ。あなたが和食党の日本人なら、この二つはインドに持ってくることをお勧めします。それから海のそばに育って毎日新鮮な魚を食べていたせいか、どうしても妄想から逃れられないのが「さしみ」。ぼんやりしていると時々、きすのさしみや中とろが濃密な思い出のある昔の恋人のように眼裏に浮かんできてとても困る。

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