August 22, 2008

インドの役所で考えた

事情があって、一時帰国の許可を取るためにムンバイの2箇所の外国人登録機関を一日駆け回った。インド国内でVisaの再申請をして現在発行待ちの状態なので、インドを出るのに出国許可証を取らなければならなかったのである。結局、別の事情がもちあがって帰国はあきらめたのだが、久しぶりにインドの役所を行ったりきたりしたせいでぐったり疲れてしまった。

インドの役所はとにかく非効率的である。時間までに書類を別の役所に届けなければならない理由があり、役人さんに何度も「急いでいるんですが…」と声をかけてみた。しかしどういうわけか手続きの途中で急に「2分待ちなさい」と言って自分のお弁当を広げて食べ始める。困ったなーと思って観察していると、ずいぶん丁寧にご飯を噛んでいる。しかも食べた後、流しで弁当箱のタッパーの隅を丁寧に洗っている。このおじさんたちは毎日外国人の問題処理をやっているから、困った顔の外国人はもう見飽きていて同情も何もないのである。

手続きに時間がかかるのには別の理由もあって、おじさんが口述する内容を秘書の女の子がコンピューターで文章に起すのだが、彼女のスペリングが怪しい。「permission、ちがう、ピー、イー、アール、エム…、エルじゃない、エムだよ」といちいち新しい単語が出るたびにやっている。あまりの気の長さにこっちは気が遠くなりそうである。カァ、とカラスの声が遠くから聞こえてきた。

以前に帰国の用事があって仮ビザを申請したときには、下の方の役人さんに物陰に呼ばれて「お茶代として100か200ルピーくれ」と賄賂を要求された。賄賂なら手続きを始める前に要求すればいいものを、もう書類が出来上がった後に言うものだからこっちはさっぱり意味がわからない。「お金ないです」と断ると、「ふーん」という感じでさっさとあきらめて書類を渡してくれた。引き際はわりとさわやかなのが、この手の人の特徴である。

最近人気急上昇のインドの俳優、イムラン・カーンがインタビューでこれからも自分の人気を保てると思うか、と聞かれて、「世の中には自分の力でどうにかできることと、できないことがある。できる努力はするけれど、それ以外のことは僕には分らない」と答えていた。役所のベンチに腰掛けて手続きを待っているときにその言葉を思い出し、イムランは若いのに気の利いたことを言うなあ、と思って目を閉じた。

黙って座ってないで、腹を立てて怒鳴って、あるいは説得して、少しでも状況を改善しようと努力すればいいじゃないか、という人もいるかもしれない。もちろんそうやって納得できないものごとと戦うことで何かを変えていこうという志のある人たちがいることもわかっている。しかし、道徳心が弱いのか単に気弱なのか、どうもそういう気持ちになれなくて、「ちょっととりあえず座ろう」という感じでぼんやり様子を観察し、観察の結果得たちいさなテーゼなり教訓なりを自己の反省材料とすることでたいていのことをやりすごしている。


だいたい、インドの役所のおじさんを変えるのなんか百回生まれ変わっても無理だから、不毛な戦いにエネルギーを使うよりは、おじさんはそっとしておいて自分のことをやっていたほうが得である。こういう生き方は非福祉的といわれれば、それはもちろん同意せざるを得ないのだが。

2 comments:

  1. まさに日本は
    「世の中には自分の力でどうにかできることと、できないことがある。できる努力はするけれど、それ以外のことは必ず他人がきちんとやってくれるはず」とう前提で人々が行動しているような・・・
    と、このブログを読んだ後、区役所にお金を払いに行って思った。
    待ち時間1分。処理時間3分弱。保険料払っただけなのに丁寧なお礼付き。
    だから取り立ててそこからテーゼは得られず・・・

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  2. それ以外のことは必ず他人がきちんとやってくれるはず、か。ほんとにそんなかんじですよね。むしろその環境で「できる努力」とやらをちゃんとできるのか?という気もしますけれど。

    しかし日本の役所はすごく機能してますよね。どんどんサービス精神が向上しているんじゃないでしょうか。私も前に日本に戻ったときに年金関係の手続きで役所に行ったのですが、係のお兄さんがすごい顔がかわいくて、かつ丁寧で、公務員からこんなにサービスしてもらっていいのかとびっくりしてしまいました。

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