October 27, 2008

ピニャ・カラーダの日曜日

日曜日の朝、ぐったりした気分で目を覚ますと、もう10時を回っていた。ゆっくり朝食を食べてからバスルームに行くと、バスルームからベッドルームの床一面が浅い足洗い場のように水で埋まっていた。水桶の水を代えようと水道の蛇口をひねったまますっかり忘れていたのである。

私はこの種の自分の過ちに慣れているのであまりショックは受けない。「我、愚かなり」と心の中でつぶやくだけである。新聞の束を床に撒いてみたが、水の量が半端じゃないのでまったく役に立たない。水なんだから放っとけば乾くだろうという結論に至って、扇風機を最大風量で回して外に出た。

ムンバイの10月はものすごく暑い。家から歩いて30分ぐらいのところにあるショッピングモールのレストランで冷たいビールを飲みながら本を読んだ。このレストランは他には珍しく、ランチタイムにビールを飲みに来る若いカップルや友達同士で結構席が埋まっている。ビールの後にデザート代わりにピニャ・カラーダを頼んだ。ココナッツミルクがたっぷり泡立っていてかなりおいしかった。一口一口が濃いので、本を読むのをあきらめてしばらく味だけを満喫して何も考えずに時間を過ごした。

家に戻ると、水はほとんど乾いていた。水のことなんてすっかり忘れていたので、最初、なんでこんなに床が汚れているんだろう?と不思議に思った。雑巾がけをしたら、床は何事もなかったようにきれいになった。

昔、行き詰っていたときに、大学の先生に、「君は友達と酒を飲んで愚痴を言い合ったり、寝る前にテレビを見ながらぼーっと過ごしたりすることはあるのかな?」と言われたことがある。当時はノイローゼのように勉強していたから、枕の左右に分厚い本の山ができていて、テレビや映画はろくに観なかったし、友達からの誘いもことごとく断っていた。「一生懸命やっている」とか「必死でやっている」こと何か重要だと信じていたころの話だ。どうやったら人生のハイライトだけをつまんで生きられるのか、と真剣に悩んでいたことを思い出す。そんな疲れる人生、今なら絶対ごめんだよな。

落ちも結論もない、ある日曜日であった。

October 6, 2008

アビシェイク・バッチャンはちょっと

今週末に行った映画は「DRONA」。アビシェイク・バッチャン主演のファンタジー映画である。これが結構ひどかった。映画館を出たときどっと疲れていた。

ヒンディ語がわからないのにいいとかひどいとか判断できるのか、と聞かれたら、「ある程度はできる」とはっきり言える。せりふがわからないので効果を頼りにストーリーを追っていると、音楽、カメラの動き、シーンの切り替わり方なんかが下手なのがものすごく気になるのである。不自然な効果を延々3時間も観ていると完全にへとへとになってしまう。

簡単に映画のストーリーを説明すると、青年アビシェイクは実は不思議な力を持った伝説の勇者Dronaで、伝説上因縁のある悪の組織が彼の力を使ってなにか悪いことをたくらんでいるのを阻止してやっつける、というかなりどうでもいい内容である。

アビシェイクは寡黙な青年の役で、クールなつもりなのかまともなせりふがほとんど無い。突っ立って憎しみのこもったような目で虚空を睨んでいるかショッカーみたいな敵をやっつけているかどっちかで、きっと喋らせたらろくでもないから彼にはせりふをつけなかったんだろう、と思わせるほど演技が下手である。父親のアミタブ・バッチャンは顔がもうちょっと精密なので黙っていると寡黙に見えるけれども、息子の方は野生的な外見のせいか、見ているとだんだん「あれ、彼はひょっとして人間の言葉がわからないのかな?」という気持ちになってくる。

映画全体も意味ありげにしようとしてか、ほとんど3分に1回はスローモーションがかかる。スロモがかかってないときにもカメラが役者の下から上になめるようにゆー…っくりと動くせいで、全篇スローで観ているのと変わらない。
結論としては、アビシェイク・バッチャンはちょっと、もういい。ひょっとしてファンの人がいたらあれだけれど、私は父アミタブ・バッチャンとアビシェイクの妻アイシュワイヤ・ライは大好きなので、それで勘弁してほしい。

サンパダのあひるレストラン

あひるレストランはサンパダ駅からハイウエイをはさんでほぼ向かいにある。名前をShikaraという。入り口のアーチをくぐると広い店内の壁中に熱帯魚がディスプレイされていて、ホールの真ん中に大きな池がある。池の上に橋があり、その上にもテーブルが並んでいて、そのテーブルに座ると大きなあひるが2羽、池のほとりにいるのが見える。

会社のマネージャーにあそこはカシミール料理を出すんだよ、と教えられて、会社の先輩と二人で行ってみたのだが、残念なことにカシミールメニューはやめてしまったという。しかし料理はかなりおいしかった。

まず注文したのがマトン・カバブ。スパイスが辛くもなく薄くもなくちょうどよく効いていてビールとよく合う。マトン・カバブはやたらと塩辛かったりくさかったりするけれど、それが全然なくて、ぱくぱく食べられる。付け合せはうすく刻んだ生たまねぎ。

つぎの料理はRavaなんとかというフィッシュ・フライで、白身の魚ポンフレットを3枚におろしてセモリーナを衣にして軽く上げてある。ちょうどよく香ばしくあがっていて、中はほかほかの白身、衣はさくさくで、これもどんどんお腹に入っていく。残念なのは付け合せがまた生たまねぎだったことである。ほかの付け合せがないらしい。

この2品をつまみにしてフォスター・ビールを3本飲んだ。甘いものがほしくなったのであったかいチャイを頼んで落ち着いて、しめにライスプディングを食べる。寝ていたあひるが時々目を覚まして「ワーワー」と鳴き、また首をぐるっとひねって自分の羽根に頭を突っ込んで眠りに戻る。9時を過ぎると閑散としていた店内が突如として賑わい、席がつぎつぎに埋まって音楽グループがホールの隅で演奏を始める。

タンドールメニューが250から500ルピーぐらいで料理はけっこう高めだが、ここはなかなかよかった。アメリカに行ったルームメイトとあんなにサンパダをふらふらしていたのになぜ1年半もこの店に気付かなかったのか不思議である。また行ってみたい。

KIDNAPの無意味なセクシーシーン

イムラン・カーンとサンジェイ・ダッドが主演のサスペンス映画、KIDNAPを観に行った。イムラン・カーンは最近登場した若手で、人気俳優アミール・カーンの甥ということで注目を集めている、小柄で線の細い俳優である。サンジェイ・ダッドは中年のマフィア風悪顔俳優。

少年刑務所上がりのイムランが大企業の社長であるサンジェイ・ダットの娘を誘拐し、娘の命と引き換えにゲームを要求する、というストーリー。ある成金からお金を盗ませたり、昔の友人を刑務所から脱獄させたり、さまざまな要求をサンジェイ・ダットが娘を助けるために次々とこなしていく。ゲームをクリアするごとに謎のメッセージが犯人から届く。実は二人の間には因縁の過去があったことが次第に明らかになるのである。

逃亡するイムランを追いかけてサンジェイ・ダッドが工事中のビルの中を駆け回る長いシーンはスピーディーで迫力。お腹が出て、肝臓を完全にやられているらしい全身真っ赤の中年男がここまで跳べるものか、と真剣にはらはらどきどきして観ていた。

ひとつ問題なのは、誘拐された娘役の女優のセクシーダンスシーンがあまりにも唐突に始まることである。かなりシリアスなストーリーなのにもかかわらず、彼女の登場シーンでは、虜になっているという設定はお構いなしに、海や滝で水びたしになりながら踊ったり歌ったりする。どういうわけか着ている服も毎日変わり、ドレスだったりマイクロミニだったりやたらセクシーできれいな服を着ているので、いちいち「あれ?」と考えこんでしまって、話に入り込めない。インドでは映画に「入り込んで」観ている人はほとんどいないから、入り込もうと努力している私が悪いといえば悪いのだが。

細かい矛盾をいちいち突っ込んでいるようではまだインド的映画視聴法をマスターしているとはいえないなあと思いつつ、やっぱり突っ込まざるを得ない。しかし全体的に言えば、なかなか凝ったいい映画であった。

October 4, 2008

おばさん、かもしれない。

ムンバイの道をふらふら歩いていると、スラムの子どもたちがときどき駆け寄ってきて「1ルピーちょうだい」とねだる。5人ぐらいの子どもの集団がおおはしゃぎでついてきて左右から「ちょうだいちょうだいちょうだい!」と小鳥の大群みたいに叫ぶときもあるし、一人の子が腕をつかんで延々とどこまでもついてくることもある。

最近気づいたのだが、注意深く聞いてみると彼らは「アンティ、1ルピーちょうだい」と言っている。アンティはヒンディ語で「おばさん」という意味だ。そうか、そうなのか、おばさんなのか、と軽くショックをうける。「1ルピー、持ってない」と返事をしながら子どもの顔をついじっくり眺めて、こんな小さい子から見たら私はすごいおばさんに見えるのかもしれない。いや、子どもが小さいからではなく、それが一般的な見解なのだろうか、とつい考え込んでしまう。わりとデリケートな年齢なのだ。

会社で隣に座っているマネージャーに、「ちょっと聞きたいんだけど、アンティっておばさんって意味だよね、他の意味はないよね」とためしに確認してみたら、「アンティはauntだね」という。「ただ、お姉ちゃん、という単語が他にあって、それはインド人の年齢の低い女の子に使う言葉だから・・・、君の場合は外国人だから、使い分けた結果としてアンティになったのかもしれないよ」と、いちおう慰めてくれたがあまり説得力がない。

まあ、しょうがないけどさ、とぶつぶつ言いつつ、「アンティ」と呼ばれるたびに「ああ、やっぱりアンティか、そうか」といちいち自己確認するみたいでなんだかちょっと切ない。

October 1, 2008

サリーが着られないインド女子たち

前回サリーの話をしたけれど、それに関連した話である。自分でサリーが着られるようになりたくて時々会社に着ていって人にできばえを評価してもらうのだが、やたらと女の子に「よくやるねえ」と感心されるのでよくよく聞いてみると、最近の二十代前後の女の子の多くは自分でサリーが自分で着られないのである。

若い女子の集団で集まっているときに一人ひとりに聞いてみたら、ほとんどの子が「途中までしかできない」「やったことあるけどすぐ忘れちゃう」とかなんとかそれぞれに言い訳を言って、結局「ねえ、難しいよねえ、あれ」という合意にいたってしまった。彼女らがサリーを着るのはお祭りとかパーティーとか、特別な機会だけなのである。そういうときにはお母さんが出てきてちゃんと着せてくれるから、なかなか着付けができるようにならないのだそうだ。新しい世代である。

ひとりの女の子は、友達の結婚式でデリーに行かなければならず、かといって着付けのためだけに母親連れて行くわけにもいかないので、1ヶ月猛特訓を受けて着付けをマスターしたという。しかし結婚式当日に自力でサリーを着てみたら、体の前に来るはずのドレープが背中に回ってしまって、泣きながら母親に電話して「お願い、助けてー!」と叫んだそうである。道のりは長い。

サリーに限らず、最近の中流階級以上の若い女の子はインドの味噌汁ともいうべきダルがまともに作れない、と以前に行った料理教室の先生が嘆いていた。「豆を煮るとき水を何カップ入れたらいいんですかー?なんて基本的なこと聞いてくるからほんとに困っちゃう」ということである。彼女らのお母さん世代の多くは専業主婦で、娘が結婚して出て行くまで、毎朝お弁当を作ってもたせて学校やオフィスに送り出し、夜はご飯を作って帰りを待っているというのが普通だから、娘が料理を習う機会がないのである。


私も「ほんだし」なしでまともな和食が作れないし、浴衣の着付けは得意だけれども、和服の着付けは自分ではできないから、人のことをとやかくいえる立場ではない。しかし彼女らの子どもや孫の時代にはサリーをまともに着られる人口が相当減っているんじゃないかと思うとなんだかがっかりである。日本の着物と味噌汁が決して消えないように、インドのサリーとダルが歴史から消えることはまずないと思うけれど、サリーが着物と同じように特別な衣装になって、サリー着付け師なんてものが現れてくることはもう必至である。

テーラー通いは楽しい

7月に来た会社の新人Aちゃんの影響で最初のサリーをオーダーしてから、テーラーに行って服をオーダーするのが趣味のひとつになった。インドではつるしの服よりもテーラーメイドの服のほうが一般的である。街の服屋さんに見えるショップの多くは実は布屋さんで、そこで買った布を持って自分でテーラーに行き、サルワール・カミーズなど、そろいの服を自分にぴったりのサイズと好みのデザインでオーダーするのである。布屋さんにテーラーが付属していることもある。テーラーはたいてい仕事が速くて、簡単なもので1日、ちょっとややこしいオーダーをしても1週間以内には仕上げてくれる。

サルワール・カミーズ(パンジャビ・スーツ)を作る場合、大体トップとボトムと首にかける長いスカーフ用の布が3点セットで「ドレス・マテリアル」として売っている。好きな柄の布を買ってテーラーに持っていくと、職人が全身のサイズを測って、トップのデザインをカタログから選ばせてくれる。なかなか手の込んだデザインがたくさんあるので試してみたいんだけれど、なかなか勇気が出なくていつもシンプルなものを選んでしまう。

サリー用の布は街中に売っているけれど、要注意なのは値段によって生地の質が見た目ではっきりわかるぐらい違うことである。私は800ルピーのおしゃれサリーと100ルピーの普段着サリーの両方を作ったけれど、100ルピーのサリーを会社に着ていったとき、ファッションにうるさい社員に「私は着ないけれどね」と言われた。安い化繊のサリーは労働者のサリーなのである。会社のお掃除のお姉さんは、普段着で100から200ルピーぐらいのサリーを着ている。

サリーの布を買ったら、その布に合わせたペチコートと、ブラウス用の布を調達してテーラーに行く。テーラーではサリーの布の端っこを処理して、体にぴったりのブラウスを作ってくれる。

先週の土曜日、初めてテーラーで洋服を注文してみた。これは会社の安ファッション仲間のDさんの影響である(とにかく影響されやすいたちなのだ。)Dさんはスーパー強気のアメリカ人で、その勢いとこだわりの強さのせいか、いつもすばらしい出来上がりのオーダー服を着て会社に来る。その彼女が最近洋服をオーダーしたというので私もまねしてなるべくファンシーな看板の出ているテーラーに行ってみた。テーラーに行くと、ミシンを操っている男の子がデザイナー兼オーナーのお姉さんを電話で呼んでくれた。お姉さんはポニーテールにサングラスを頭に引っ掛けた、いかにもおしゃれな感じの人である。

普段着用のシンプルなワンピースを作りたいんだけど、と言うと、お姉さんは「かんたんかんたん、まかせてちょうだい」と言って、あなたの肌に似合う色はこれとこれと…とよさそうな布をどんどん出して並べる。だいたいのイメージを言うと、「わかったわかった」とうなづいて、「デザイナーにまかせなさいって。何が似合うかちゃんとわかるんだから」となかなかたのもしい。「じゃ、よろしく」とお願いして店を出た。布と仕立賃をあわせて一着400ルピーぐらいだからなかなかよい。どんなものができてくるのか、かなりたのしみだ。