August 25, 2008

インド人のストレス

ある雑誌のデータによると、都会に住む若いインド人の女性でうつになる人が増えているという。新聞や雑誌の生活面でもストレス対策の記事が頻繁に取り上げられ、簡易うつ診断チェックリストやディストレスを避けるための十か条といった特集が紙面で組まれている。これがインドの経済成長の影の面として起こった結果といえるのか、あるいは単にオフィスワーカーが増加したことで、メディアが彼らに人気が出そうな話題としてうつやストレスに目をつけているに過ぎないのか、それは分らない。しかしどちらにしても、これらが現代インドの都市生活者の関心を引く話題であることは確かなようだ。

以前同じオフィスで働いていた若い英語講師の女性は、独身のころには朝早くから夜の10時ごろまで毎日残業をしていたと言っていた。今の職場に移ってからはそれはなくなったけれども、結婚してからは仕事のせいでお姑さんに家事を任せているのが申し訳なくて台所の周りをうろうろしたりと、最初はずいぶん気を遣って大変だったということである。過重労働に家庭でのコンフリクトにと、働く女性はなにかと抱えている。

インド人の作家、かつ福祉活動家の女性が書いた「The Old Man and His God」というエッセー集を読んだ。これがインドの女性の悩みの煮込みおでん、という感じの本だ。嫁ぎ先の夫と舅姑との仲がうまくいっていないことを人に相談できず、外では最高に幸せな妻を演じているお嫁さん。一番の親友と貧富の差がついてしまい、気後れして友達づきあいができなくなってしまった女の子。夫婦で一生懸命お金を貯めて買った家を夫が相談もなく抵当に入れてしまったのに、どうしても夫に怒りをぶつけられない妻。などなど。みんなどこかで耳にしたような話ばかりだ。どこに生まれようが、愛や家族、暮らしといった基本的な悩みからは逃れることはできない。一歩内側に入ってみれば、みんなそれぞれが自分のソープオペラを生きているのである。

インドで暮らしてみると、日本ほどには人の感情表現にホンネとタテマエがないと感じる。人々を見ていると正直で屈託がなく、怒っているときは声を上げて怒鳴る、落ち込んでいるときは黙る、相手が気に入らないときはいやみを言う、というストレートな人が多い。だからこの人たちは比較的ストレスが蓄積しにくいんではなかろうか、というぼんやりとした印象を持っていたのだが、実際にはみんながそうともいえないようだ。彼らには彼らの、外国人には簡単に理解できない社会的な抑圧によって、外に向けて発散するのが難しい種類のものごとだってあるのだろう。

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