ムンバイに戻ってきた。先週まで2週間ほど日本に滞在していたのだが、その間、テレビや新聞で報道されている話題はほとんどが、中川大臣のG7後の酔っ払い会見と麻生内閣支持率の低迷(11%)であった。
2週間もいると、朝のニュース、お昼前のワイドショー、新聞、週刊誌、車の中のラジオ、食事時の夕方のニュース、寝る前の報道番組とものすごい頻度で同じ内容、同じトーンの報道に繰り返し繰り返し触れるので、その「公共の意見」的なものが頭にどんどんすり込まれていくのがわかる。これはちょっとはっとする経験であった。
人に会うと、同じことが話題に出る。人は半ば自分の意見のように話すが、テレビで報道されているトーンと人の話すトーンはほぼ同じである。そういう一こま一こまを眺めていると、みんな別にそのニュースについて議論をしたいのではなく、話題や意見を人と共有して、「困ったねえ、駄目だねえ、こりゃ」と言いながら和みたいだけのように見える。
例えば、「麻生は駄目だ」というメッセージは「ブレ」という表現使ってふんだんに、ありとあらゆるメディアで流される。その単純でわかりやすいメッセージは、麻生内閣がなぜ駄目なのか、その理由や根拠の情報量よりも圧倒的な量でもって、理屈を理解するよりもずっと速いスピードで「駄目だ」というイメージをまず形成する。実際、本当に駄目なのかもしれないけれど、日本のニュースからしばらく遠ざかっていた者としては、「麻生さん、一体何をやらかしたんだ?」とけっこう面食らってしまう。
テレビや雑誌を真剣に追っても答えが出てこない。人に聞くと、「あの人は漢字が読めない」、「失言が多い」、「定額給付金はろくでもない」という決まった答えしか返ってこない。でも意識的に疑問を持とうとしないで話を聞いていると、だんだんその意見というよりムードのなかに自分も取り込まれていくのがわかる。そのムードが理にかなったものであるか否かはここでは別の問題である。
帰国の前に本屋に立ち寄ったときに、四方田犬彦の『人を守る読書』を見つけた。ムンバイに向かう飛行機の中で読んでいたら、なぜ自分がそのタイトルに惹かれて本を買ったのかがだんだんわかってきた。前書きには「本を読むということは、他者の考えを読むということである」と書かれている。他人の考えを知ることで、それを媒介、または反射板として自分が何をどう考えてるのかがわかるのである。テレビや雑誌が伝えるのは、社会で共有することを目的としたムードである。強力でありながら、責任がだれにも転嫁されない。しかし、一人の著者が書く本はそうではない。本は批判されることを前提に、著者とは違う意見を持つ人に向けて書かれている。
インドでテレビのない生活をしている間は、あまり強い読書欲を感じなかった。しかし日本の特殊な情報のあり方にさらされたあと、脳が足りないものを保障するみたいなかんじで無性に本が読みたくなる。今までテレビを批判的にとらえたことはなかった。自分さえしっかりしていれば、テレビや雑誌の情報も有益な材料になりうると考えていたけれど、四方田さんの本のタイトルどおり、日本で自分でものを考えて生きていくためには、テレビを見ないか、本をどんどん読まないとまずいんじゃないかと思う。そうでないと、取り込まれる。そのムードが善きものであるか否かの判断をするひまは、与えられない。
February 27, 2009
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『それ、ほんまにあんたの意見なん?テレビで誰かが喋ってたことの受け売りやないのん?』ってテレビ見てるとそう思うことよくあるわ。
ReplyDelete2年前ぐらいからそういうことにすごい疑問を持って(『やわらかい刺激』にも疑問を持ったんだけど)本をcraveするようになりました。本は精神を開放してくれるな・・・。
The Queenって映画でPrince Philipが「どうして会ったこともない人間(ダイアナのこと)の死に国民は泣くことができるんだっ!」みたいなセリフがあったけど、私もハタと止って「ほんま、なんでダイアナ死んだとき泣いたんやろ?」って思っちゃった。そのセリフがメディアの作りあげる力って怖いんだぞ、って暗に言ってるみたいだった。
関係なくてごめそ(ちょっと関係あるな)。
ちなみに麻生さんって外国人(アメリカ人ね)から、その発音が似てることから「Ass Holeさん」って言われてるのよ。確かに似てる。でもなんかムカつく。なんでだろ。
ダイアナの死で何で泣けちゃったか、って確かに言われてみたら不思議だ。メディアが作る雰囲気に飲み込まれちゃうんだろうか。
ReplyDelete以前に、アフガニスタンで活動していてつかまった日本人の人たちが「自己責任」て言葉で徹底的にメディアから締め上げられたことがあったね。あのときも若い人からおばあちゃんまでみんな「あんなとこ行くから悪いんだ」って判を押したように同じことを言っててすごく怖かったですね。
Ass Holeさん…、絶対付けられたくない類の最悪のあだ名だ…。