June 7, 2008

極楽は去り難し。

ムンバイから日本へのトランジットでシンガポール空港に立ち寄った。動く歩道に乗っていると左の壁にこんなシンガポール空港のキャッチコピーが何枚も掲げられていた。

If you find a heaven, it’s always hard to leave.

極楽は去り難し。確かに。しかし去ることを強いられるのが世の理です。切ない。もちろんこれはシンガポール空港がいかに快適であるかを訴えたコピーですが、よくよく考えてみると空港は天国に似ていると言えなくもない。

音のしないフロア、ぴかぴかのショップ、そして数え切れない数のレストラン、バー、カフェ。あのふわふわと所在のなく、目的的行動と目的的行動のはざまで一時その目的自体を忘れるような心持が、まだ行ったことのない極楽の様子に似ているような気がします。しかしもちろん本当の極楽とはちがって、お金がなければどの店にも入れない。

ひとりで空港のバーでビールを飲みながら、フロアをうろうろする人たちをぼんやり眺めていると、自分がこれから再びインドに戻って暮らそうと望んでいる、その意思をふと遠くから見つめているような不思議な感じがする。うーん、なぜ戻りたいのだろう?と思いをめぐらすが、よくわからないのでまたビールを飲む。

ゲートまで移動して、いよいよ搭乗の手続きをして、「さて」、と飛行機に乗り込むと、ようやく生きた心地がしてくる。意思を持つことと生きることとはかなり密着した関係にあるのだな、と思った。その意思や目的そのものに、自分や人を説得できるような何かがあっても、なくても。

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